鏡の中の微笑み

古民家で一人暮らしを始めた私は、食堂の壁に飾られた古い鏡に奇妙な感覚を感じた。最初は、ただ自分が歳を取っているだけだと思った。顔色が悪く、目は窪み、影も濃くなった姿を思い描いていた。だが、それは鏡の中の私だけがそうなっていた。鏡の中の私は新鮮な若さと、どこか悪戯っぽく微笑んでいるのだ。 数日すると、私の顔は本当に若々しくなってきた。疲れが消え、肌はシワすらなく潤っている。しかし、鏡の中の私の笑顔は、以前の日差しのような明るさではなく、どこか不穏な陰謀を孕んでいた。まるで私以外誰も気づかない悪事を水面下で仕出しているかのようだ。 ついにその夜、夢を見ないまま眠りについた。朝目が覚めると、私の顔は以前通りの色を失っていた。鏡を覗いた私は愕然とした。鏡の中に映る私は、老いていく私自身の姿ではなく、まるで悪魔のようなグロテスクな化け物になっていた顔を見つめていた。 顔は歪んでいて、歯は長く鋭く伸びており、その目は見開かれ、悪意に満ちている。その化け物の口から、冷酷な声が聞こえてきた。「貴様は微笑んでいるな。私の邪魔をするなら、永遠にこの姿を味わえ」 恐怖に慄きながら、私は鏡に向かって叫んだ。「あの笑顔は...私のできた笑顔なんだ」 だが、化け物の顔は冷酷な笑顔のまま鏡に映る私を見下ろしていた。その日から、鏡の中の化け物は毎日私の顔に向かって微笑んだり、嘲笑したり、時には私に囁きかけてくる。それは、私の自分内と対峙せざるを得ない恐怖そのものであった。

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