置き手紙

引っ越しして3週間が経った。新しい家を探している時は、ネットで古い家が雰囲気良かったなと思いつつ、実際にここに住んでみると、その雰囲気はちょっと怖いくらいに込み上げてきた。庭には枯れ果てた花が野草のように咲き乱れ、家の内部の空気は湿っぽく、どこか懐かしい臭いが混じっている。 特に、家の二階にある書斎に奇妙な気配があることに気付いていた。最初は電気がつかない以外は特に気になることはなかった。しかし、数日経ったある夜、書斎から奇妙な音楽が聞こえた。古びたメロディーのようなもので、階下まで響いてくる。怖くなって二階に行って覗いてみると、部屋は空っぽだった。棚には古書が整理整頓され、机の上には万年筆とノートが置かれているが、音楽の源は分からなかった。 その夜、夢を見た。それは子供の頃の懐かしい悪夢だった。白い手の中に自分を置いてしまった夢。起きた時に、枕元のノートに新しい一行が追加されていたのを見つけた。 赤いインクで書かれていたこの一言は、ゾクゾクと私の体中に電流が走るのを止めなかった。 『また遊びましょう。』 その後、毎日一枚ずつ新しい書き手が書かれた置き手紙が増えていった。手紙の内容はいつも同じ短文だった。 * 今日はいい天気だ * あなたの歌をよみがえらせた * 寂しくて… 寂しくて… 部屋から聞こえる音楽も日常化してきた。誰かに見られ、どこかに連れていかれるような不安に駆られていた。 ある日、リビングで本を読んでいると、娘が指を指差して怖がっているのを見て、慌てて娘と過ごしている部屋を覗いてみた。寝室の開け放たれたドアから白濁した息を押し出す何かが見た。 娘は泣きじゃくり、私にこう言った。 『赤いおばあちゃんと、一緒に遊んでいる…赤いおばあちゃんが、優しいって言ったんだ…』。 私は娘を抱きしめながら、震える手でノートを取り出した。そこには、赤いインクで書かれた新しいメッセージが。 ‘もう、あなたは一人ではありませんよ'。

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