忘れられない声呼び続ける電話

大学時代、東京の古いアパートに住んでいた時、僕が唯一怖かった物は電話だった。いつも深夜に鳴る謎の電話だった。電話口には何もない。ただ、俺の名前を呼ぶ声がかすかに聞こえてくるのだ。 その声は、どこかで聞いたことのある声だった。幼少期の記憶の中で、母親から聞いた小さな天使の声に似ていた。だが、その声は冷たい、死んだような哀愁を帯びていた。 何度か電話に出たが、すぐに切れる。ハングアップすると、すぐにまた鳴る。まるで、僕に何かを伝えようとしているかのように。 ある夜、それでも耐えきれずに電話に出ると、いつものように静けさだけが響いた。しかし、僕がその瞬間、心臓を締め付けるような不安感に襲われた。そして、俺は知らない声を聞いた。 「あなたはそれを奪ってしまったのです…」「約束を忘れないでください…」「再び…あの場所へ…」 声が切れると、電話は熱い。まるで、何かがそこにいるかのように。僕は恐怖で震え上がった。翌朝、そのアパートの最上階に着いた。そこはベランダだった。 僕はあの声が聞こえてきた場所にいた。ベランダの端に、古い戸締まりが置いてあった。何十年も誰も触ることのないような古びた戸締まりだった。そう、その戸締まりを見た瞬間、俺の記憶は呼び覚まされてきた。 幼い頃に、あの声に似た声がした場所は、実はここだった。母親が言うよりもずっといいほど怖い場所に。母親が僕の友達を誘拐した場所だった。約束は、僕をあの場所に戻させる約束だったのだ。 それから、僕は二度とあのアパートに戻らなかった。そして、あの電話は鳴りやまない。時々、東京の寂れたアパートに住んでいる僕のそばを、あの白い電話が揺らしながらたどたどしく、俺の名前を呼ぶ。