消滅する村

深い森に抱かれた小さな村があった。そこは絶世の美しさと称され、訪れる者さえ時を忘れるほどの静けさを誇っていた。しかし、村には古くから言い伝えられていた噂があった。それは、満月が輝き始めると、村の人々は徐々に消えていくという。 年老いた村長だけがその噂を信じていた。ある夜、彼は満月に透き通るように光り輝く村を見渡した。いつもの村人たちの笑い声、賑やかな祭りなど、何もない。誰もいない。彼は大きな声で村人たちを呼びかけたが、返事はない。すべてが沈黙以下だった。 その時、村長の足元に小さな光が現れた。ろうそくの火のように柔らかに揺れる光であった。村長は光を追いかけた。光は徐々に森の方へ誘い込み、その先には奇妙な現象が見えた。森の中は半影の中へ消え、村長の目が留まったのは、一瞬の間だけ、見覚えのある村の風景だった。まるで、影絵のように。そして、それを超えた世界では、村長は自分が一人だけ生きていることを知った。 村長の叫び声は山に消え去っていった。彼は村を見守り続け続け、月の光に照らされた虚ろな光景を見つめ続け、永遠に孤独な男として生きていくことになった。満月が見えると、村長は過去の賑やかさを思い出し、自分の存在を意識して、静かに涙を流すのであった。

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