古い鏡の中のもう一人

古い鏡の中のもう一人
大学進学を機に一人暮らしを始めた私は、街の中古家具店で大きな古い鏡を見つけた。年代物らしく、木のフレームには細かい彫刻が施されており、独特の重厚感があった。少し傷がついてはいたが、それがまた趣があり、部屋に置けば雰囲気が出そうだと思い、購入することにした。

その夜、鏡を部屋に置いた私は、何となく部屋が広く感じられるのを楽しんでいた。夜中に目が覚めたとき、鏡がベッドの方を向いているのに気づき、ぼんやりとした自分の姿が映っているのが見えた。その時、ふと違和感を覚えた。鏡の中の"私"が少しだけ微笑んでいるように見えたのだ。

翌朝、その不気味な感覚は忘れていたが、夜になると再び奇妙な出来事が起きた。深夜、ふと目を開けると、鏡の中の"私"がまた微笑んでいる。しかも、今度は軽く手を挙げているように見えた。それは、まるで私を誘うような仕草だった。

気味が悪くなった私は、翌日鏡を壁に向けて置き直した。しかし、その晩もまた、何かの気配で目が覚めた。寝ぼけた目で鏡の方を見ると、なぜかこちらに向き直していた。驚いて確認しても、触った覚えはなく、しっかりと壁に向けたはずなのだ。

気味が悪さは日に日に増し、鏡の中の自分の表情が少しずつ変わっていくように見えた。微笑みが徐々に大きくなり、どこか狂気を帯びた笑みに変わっていく。ある夜、恐怖に耐えかねて、その鏡を捨てることを決意した。

翌朝、鏡を抱え、近くのゴミ捨て場に置いた。これでやっと安堵できると思ったのも束の間、夜になると部屋の隅に"その鏡"が戻ってきていた。驚愕している私に向かって、鏡の中の"私"が手を振りながら、口の動きでこう言っていた。

やっと、あなたと会えた

その後、私はあの鏡を二度と触らないようにしているが、夜になると鏡の中の"私"がこちらをじっと見つめているのを感じる。いつか、あの中の"私"がこちらに出てくるのではないかと思うと、恐ろしくて仕方がない。

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