大学で課題が山積みだった私は、締め切りに追われ、夜遅くまで図書館にこもっていた。その日は珍しく図書館が夜遅くまで開いており、静かな空間で集中して作業を進めることができると期待していた。ほとんどの学生が帰り、図書館はほぼ無人だったが、その静けさが逆に不気味さを際立たせていた。
深夜1時を過ぎた頃、ふと後ろの棚で本が落ちる音が聞こえた。振り返っても誰もいないが、本が一冊、床に転がっていた。私はそれを拾い上げ、元の場所に戻そうとしたが、なぜか妙な寒気が背中を這い上がった。それでも作業を続けていると、また別の棚で「カサ…」と紙の擦れるような音がした。
耳を澄ませていると、奥の方で人の気配を感じる。だが見回しても誰もいない。気のせいかと思って席に戻ろうとしたその時、今度ははっきりとした足音が、ゆっくりと私に近づいてきているのを感じた。音は一定のリズムで、一歩一歩と確実に近づいてくる。恐怖で心臓が締めつけられるような感覚に襲われたが、声も出せず、ただその場に立ち尽くしていた。
やがて足音がぴたりと止まった。振り向いても、誰もいない。しかし、棚の隙間から、こちらをじっと見つめる視線があることに気づいた。薄暗い空間に浮かび上がるように見えたその目は、人間のそれとは違う冷たさを感じさせた。
恐怖に駆られて、私は急いで荷物をまとめ、その場を離れようとした。しかし、出口へと向かう途中で、今度は背後から何かが迫ってくる気配がした。走り出すと、追いかけてくるように「ダン、ダン」と足音が響く。ドアまであと少しというところで、突然図書館の電気が全て消えた。
真っ暗な空間に一人取り残された私は、必死に携帯のライトをつけて前を照らした。だが、ライトが照らした先には誰かが立っていた。それは、私が先ほど感じた視線の主だった。黒いシルエットの中から目だけが光り、笑みを浮かべているように見える。私はその場で立ち尽くし、動けなくなってしまった。
次の瞬間、その影が私に向かって手を伸ばした。その冷たい感触が肌に触れた瞬間、意識が途絶えた。