第2章:暗闇の中の足音
廃病院の門をくぐり抜けた沙織と友人たちは、建物の入り口で一旦足を止めました。廃れた外観のせいか、あたりには重苦しい雰囲気が漂っています。月明かりすら届かない建物の中は真っ暗で、懐中電灯をつけなければ前方が見えません。
「ここが…30年前に閉鎖された病院か。」友人の一人、翔(しょう)がつぶやきました。
廊下には古い薬品の匂いが残っており、壁には落書きやひび割れが目立ちます。床にはほこりが積もり、所々に汚れた足跡が続いていました。沙織は興奮してカメラを構え、シャッターを切りますが、その音が廊下に反響して異様な静けさを際立たせました。
「なぁ、本当にここに幽霊が出るのかな?」別の友人、健二(けんじ)が緊張した表情で言いました。
「さぁ、どうだろう。でも何か不気味な感じはするよね。」沙織は平然と答えましたが、彼女も内心少し緊張しているようでした。彼女たちは慎重に廊下を進み、古びた診察室のドアを一つずつ覗いていきます。診察台は壊れかけ、機材もほとんどが錆びついて、かつてここが命を救う場所であったとは想像もつかないような状態です。
すると、ふと誰かが耳を澄ませるように立ち止まりました。
「…今、何か聞こえなかった?」沙織がささやくように言います。
全員が静まり返り、耳を澄ませました。すると、遠くの方からかすかに「コツ…コツ…」と、一定のリズムで響く足音が聞こえてきます。誰もが息を呑み、視線を交わしますが、足音は徐々に近づいてくる気配がありました。
「これ、誰かがついてきてるんじゃ…?」健二が青ざめた顔で沙織を見つめました。
沙織は懐中電灯を足音が聞こえる方向に向けましたが、暗闇の中には何も見えません。それでも足音は止まらず、さらに近づいてくるようです。沙織たちは、慌てて別の部屋に隠れるように入り込みました。そこで全員が息を潜め、息を殺して耳を澄まします。
「ねぇ、なんかまずい気がするんだけど。」翔が震える声で言いました。
すると、足音が部屋の外でピタリと止まりました。沙織たちは恐怖で凍りつき、誰一人として声を出すことができません。暗闇の向こう側で、誰かがじっと彼らを見つめているような気配を感じます。何分経ったのか、誰もが動けずただ時間が過ぎていくのを感じていました。
突然、ドアのノブが回り出しました。「ギィ…」という音と共に、ゆっくりとドアが開いていきます。沙織は冷や汗をかきながら懐中電灯を構え、恐る恐る光をドアの方へ向けました。
しかし、ドアの向こうには誰もいません。廊下の奥は相変わらずの暗闇で、静けさだけが異様に重く感じられます。
「とにかく…ここから出よう。」誰かがそう言い、全員が無言でうなずきました。彼らは廊下に戻り、元の道を引き返そうとしましたが、先ほどまでの道がまるで違うように見えます。壁には見覚えのない張り紙や、血のような赤いシミが浮かんでいました。
「おかしい…こんな場所、さっきはなかったのに。」沙織がつぶやくと、誰もが息を呑んで周りを見回します。
「沙織、これ、やっぱりおかしいって!ここから早く出よう!」健二が叫びますが、その時、また「コツ…コツ…」と例の足音が遠くから聞こえ始めました。足音は再び彼らに向かって近づいてきます。彼らは恐怖でパニックになり、廊下を駆け出しました。
しかし、その足音は、彼らがどれだけ走っても、少しずつ後ろから追いかけてくるのでした。