見えない住人

見えない住人
私は大学進学を機に、小さなアパートで一人暮らしを始めた。築30年のその部屋は家賃も安く、広さも十分だったが、何か重苦しい雰囲気を感じる場所だった。しかし、学生の身としては贅沢を言えず、その部屋に住むことに決めた。

最初の数週間は何もなかった。ただ、夜になると妙に寒く感じることが多く、誰もいないはずの隣の部屋から微かな話し声が聞こえる気がした。それを気にしながらも、勉強に集中していた私は、特に気に留めなかった。



最初の違和感

ある夜、レポート作成に追われて深夜まで起きていた時だった。静まり返った部屋で、何かが床を引きずるような音が聞こえた。最初は外の音だろうと思っていたが、その音は徐々に近づき、ついには私の部屋の中から聞こえるようになった。

「風のせいかもしれない」 そう思いながらも、私は確認のために部屋を見回した。しかし、異常は見つからない。ふと時計を見ると、午前3時を過ぎていた。その時、背後に視線を感じたが、振り返る勇気はなかった。



異常な現象の始まり

それからというもの、部屋での奇妙な現象が増えていった。夜中に目が覚めると、テーブルの上に置いたコップの位置が変わっていたり、閉めたはずのドアが半開きになっていたりするのだ。ある日は、シャワーを浴びている最中に、人の気配を感じて思わず振り返ったが、誰もいない。

ある晩、決定的な出来事が起きた。寝ている時、金縛りにあい、体が動かなくなった。部屋の隅から、低い声で何かを囁く音が聞こえた。音はだんだん近づいてきて、耳元で「ここは私の場所だ」と囁かれた。その瞬間、全身に鳥肌が立ち、ようやく動けるようになった私は布団を蹴飛ばして部屋の明かりを点けた。



真実の探求

怖くなった私は大家さんに相談した。すると、大家さんはしばらく黙った後、小さな声で言った。 「その部屋、実は10年前に住んでいた男性が失踪してね……。警察も調べたけど、未解決のままなんだよ」

私は背筋が凍った。その後、自分なりに調べた結果、その男性が最後に目撃されたのは深夜3時、部屋の中だったという記事を見つけた。さらに調べると、過去にもこの部屋に住んでいた人たちが奇妙な体験をしていたことがわかった。



最後の夜

引っ越しを決意した私は、退去の日まで部屋にいることを極力避けるようにした。だが、最後の夜、どうしても荷物の整理が必要で部屋に戻った。その時、部屋中に異様な寒気が漂っていた。

荷造りをしていると、またあの声が聞こえてきた。 「出て行くな……ここにいろ……」

全身が震えた私は、何もかも置いて逃げ出した。それから数日後、再び部屋を訪れると、荷物はそのままだったが、部屋の中央に引きずったような跡が残っていた。
今でも、その声が耳から離れない。そして、ふと気づく。深夜、私の新しい部屋でも、どこからか誰かの声が聞こえることがあるのだ……。

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