私はその日、いつも通り深夜の運転を楽しんでいた。都会の喧騒を逃れて郊外の一本道を進むのが、私にとって唯一の癒しだった。月明かりに照らされた静寂な道、耳に響くエンジン音だけが友達だった。しかし、今振り返ると、その道を選んだことが運命の分かれ道だったのだと思う。
奇妙な発光体
真夜中、車で山間の道を進んでいた時だった。空を見上げると、突然、異様に明るい光が空に現れた。その光は月のように穏やかではなく、目が焼けるような鋭さを持っていた。私の心拍数は急激に上がり、なぜか恐怖に似た感情が湧き上がった。
光は動きながら徐々に近づいてくる。最初はヘリコプターか何かかと思ったが、音は全くしない。そして、その形――楕円形の物体が、信じられない速度で空を縦横無尽に飛び回っていた。
「何だ……?」
呟きながら車を停めると、光が急停止し、こちらに向かって降りてきた。
静寂と影
物体が完全に地上に降りると、光は急激に弱まり、夜の闇が再び支配する。しかし、道の真ん中に立つ巨大な影が私の視界を覆った。その形は人間のようだったが、背丈は異様に高く、首から下は黒い影のように揺れている。
怖くなった私はエンジンをかけようとしたが、車が突然動かなくなった。全身が硬直し、視線をその影から外すことができない。影はゆっくりと私に近づいてきた。その歩幅は大きく、無音で進む様子が異常だった。
「誰だ!」
叫んだものの、答えは返ってこない。ただ、その影の中に無数の赤い光が現れた。それは目だったのだ。人間ではない、得体の知れない存在の。
無音の交信
影が車のすぐ横に立った時、私の頭の中に直接声のようなものが響いてきた。
「見たことを忘れろ。知ってはならない。」
その言葉は言語ではなく、思考そのものだった。そして次の瞬間、全身が吸い込まれるような感覚に襲われた。
気がつくと、私は見知らぬ場所にいた。白い光に包まれた空間で、周囲には無数の同じ影が私を囲んでいた。彼らは口を動かさずとも意思を伝え合い、私を観察しているようだった。
私は恐怖で声を上げようとしたが、体が全く動かない。代わりに、頭の中に次々とイメージが流れ込んできた。人間の歴史、戦争、破壊、そして滅亡。最後に見たものは、地球が燃え尽きる光景だった。
帰還と謎
気づけば、私は再び車の中にいた。時計を見ると、ほんの数分しか経っていないように思えたが、外は既に明るくなり始めていた。急いで車を動かし、その場を立ち去った。
しかし、その日以来、何かが私を見ているような感覚が続いている。部屋の隅、鏡の中、街中の影――どこにいてもその目が私を追っている。
そして、あの夜に頭の中に刻まれたイメージの中の言葉が、今も消えない。
「我々はいつでも見ている。」