第一章:謎の古民家
田舎の村を訪れたのは偶然だった。仕事のストレスで都会から離れたいと考えた私は、たまたま見つけた「田舎体験ツアー」の広告を目にし、この場所に辿り着いた。村は山奥にあり、静寂と自然に囲まれた空間だった。
村に着いた夜、宿泊先の近くを散歩していると、村のはずれに朽ちかけた古民家を見つけた。苔むした屋根、崩れかけた壁、割れた窓から覗く暗闇――その家には、なぜか説明のつかない引力のようなものがあった。
「あそこに入っちゃいけないよ。」
背後から声がした。振り返ると、村の住人らしき老婆が立っていた。
「あれは呪われた家だ。入った者は皆……消える。」
老婆の震える声と厳しい表情に圧倒されつつも、私は好奇心を抑えられなかった。
第二章:家の中の異変
次の日、好奇心に負けた私はその家に向かった。老婆の警告が頭に残りながらも、空き家探検は都会では味わえないスリルだった。
古い木の扉を押し開けると、埃の匂いが鼻をついた。内部は荒れ果てていたが、不気味なことに、中央の床に何かが描かれていた。それは奇怪な模様で、黒い煤のようなもので描かれていたようだった。
近づくと、頭がズキズキと痛み始めた。模様の中心には、何かの小さな像が置かれていた。薄汚れた木製の像で、異形の姿をしている。触れるべきではない――そう思った瞬間、私の耳元で低い声が囁いた。
一瞬動けなかったが、何かに操られるように像を拾い、ポケットに入れて家を出た。
第三章:呪いの始まり
それからというもの、奇妙な出来事が起こり始めた。夜中に耳元で囁く声、鏡に映る見知らぬ顔、夢の中で何かが私を見つめている感覚――どれも現実とは思えなかったが、日に日に恐怖は増していった。
さらに、胸元に奇怪な痣が浮かび上がった。それはあの家の床に描かれていた模様そのものだった。
村の住人に相談すると、彼らは皆怯えたように私から距離を置いた。唯一助けになったのは、村の祈祷師をしているという老人だった。
第四章:祈祷と真実
祈祷師は、あの家が何十年も前から「呪われた場所」として知られていることを話してくれた。そこにはかつて、村を支配していた一族が住んでいたが、彼らが異形の神に仕える儀式を行っていたという。
「呪いは像を媒介にして宿る。お前はそれを持ち出したことで、祟りを招いてしまった。」
祈祷師は像を取り上げ、儀式を始めた。家を焼き払い、像を山奥の祠に封印することで、呪いを断ち切ることができるという。しかし、儀式の途中で異変が起こった。
突然、祈祷師の顔が苦痛に歪み、像が闇の中に溶けるように消えた。そして祈祷師は最後の言葉を残して倒れた。
「終わらない……呪いは……生き続ける……」
第五章:呪いの刻印
その日以来、呪いが消えたことを感じた。耳元の声も、鏡の異変もなくなった。しかし、胸の模様は消えないままだった。それを見るたびに、あの家のこと、祈祷師の最期の言葉を思い出す。
そして時折、夢の中で誰かが私を見つめている気がする。彼らはまだ待っている。次の犠牲者が訪れるその日を――。