高校生の由紀は、古い図書館の地下室で偶然にも奇妙な古書を見つけた。その本は黒い革表紙に覆われており、タイトルもない。しかし、中を開くと、不気味な儀式や魔法陣の描写が詳細に記されていた。
ページをめくると、最後には「真実を求める者は血の契約を交わすべし」と書かれていた。由紀は興味本位でページに指を滑らせたが、その瞬間、指先を小さく切ってしまった。その血が偶然にも古書に垂れた途端、部屋の空気が重くなり、蝋燭の炎が青白く揺らめき始めた。
その日を境に、由紀は影のような存在を感じるようになった。授業中や寝室の窓辺で、不気味な黒い影が一瞬だけ現れるのだ。それは消えることなく、彼女をじっと見つめているようだった。さらに、夜になると、耳元で低く囁く声が聞こえるようになった。「契約を果たせ…」と。
恐怖に駆られた由紀は、古書を再び手に取り、儀式の詳細を読み込んだ。どうやら、この儀式は「知識と力」を得る代わりに「魂の一部」を捧げるという契約だった。しかし、それを破ると、存在そのものが影に飲み込まれるという。
由紀は次第に追い詰められていった。影の囁きは日増しに強まり、周囲の人々に異変が起き始めた。親友の美沙は突如として意識不明になり、両親も原因不明の体調不良に陥った。すべての原因が由紀の「契約」にあることは明白だった。
由紀は儀式を解く方法を必死に探したが、解決策は見つからなかった。影の声は、次第に嘲笑混じりの調子になり、こう囁いた。「逃れることはできない。だが、新たな契約を交わすことで救われるかもしれない…」
由紀は最後の望みをかけて、影の指示に従った。指定された場所は、街外れの廃墟となった教会だった。深夜、蝋燭に囲まれた祭壇で儀式を始めると、影の形をした異形の存在が現れた。
「新たな契約を交わすことで、魂の痛みを和らげよう。」その存在は、由紀の願いを叶える代わりに、さらなる代償を求めた。「他人の魂を捧げることだ。」
恐怖と絶望に飲み込まれながらも、由紀は儀式を続けた。すると、影は彼女の目の前に、美沙の姿を映し出した。「彼女の魂を捧げるか、それとも…」
由紀は震えながらも、美沙の魂を捧げることを拒否した。すると、影は怒り狂い、由紀を飲み込もうと襲いかかってきた。しかし、その瞬間、由紀の手から古書が光り輝き、影の存在を弾き飛ばした。
朝が来ると、影も儀式も跡形もなく消えていた。しかし、由紀の手には黒い印が刻まれていた。それは、影との契約がまだ完全には終わっていないことを示していた…。