影の村の主

影の村の主

第一部: 忘れられた村

大学生の田中光一は、民俗学を専攻する友人の依頼で、とある山奥の廃村を訪れることになった。その村は地図にも載っておらず、「影の村」と呼ばれていた。光一は村についての資料を探してもほとんど何も見つからなかったが、唯一記された噂があった。

「影の村には主がいる。決してその目を見てはいけない。」

友人は「ただの迷信だよ」と笑い飛ばしていたが、光一は何か引っかかるものを感じていた。好奇心と不安を抱えながら、二人は深い山へと分け入っていった。



第二部: 廃村の足音

村に到着すると、そこはまるで時間が止まったかのように静まり返っていた。崩れた家屋と荒れ果てた畑が広がり、どこからか腐った木の匂いが漂ってくる。

光一がある家に入ると、家の中に誰かが住んでいたかのような形跡が残っていた。古びた茶碗、埃をかぶった布団、そして床に刻まれた奇妙な爪痕。友人はその爪痕を指差して、「大きな熊でもいたのかもな」と軽口を叩いたが、光一は寒気を覚えた。

その夜、村に泊まることにした二人。廃屋に腰を落ち着けたが、夜更けになると、どこからか低い足音が響き始めた。



第三部: 目を合わせてはいけない

足音は家の外を歩き回り、時折、ガリガリと爪で引っ掻くような音が聞こえる。光一が窓から外を覗こうとすると、友人が慌てて止めた。

「見ちゃダメだ!その“主”ってやつかもしれない!」

光一は友人の言葉に従い、窓から離れたが、その時、外から低く囁く声が聞こえた。

「…こっちを見ろ…」

二人は恐怖に震えながら夜明けを待ったが、声と足音は一晩中止むことはなかった。



第四部: 主の姿

翌朝、恐る恐る外に出ると、家の周囲には無数の爪痕が刻まれていた。そして、村の中心部にある神社跡を訪れると、そこには奇妙な像があった。像は人型でありながら、異様に長い手足と大きな口を持ち、その目は黒い穴のようだった。

光一がその像を見つめていると、友人が叫んだ。「ダメだ、目を見ちゃいけない!」

だがその瞬間、像の目がまるで生きているかのように動き、光一をじっと見返した。突然、頭が割れるような痛みとともに視界が真っ暗になり、気付くと光一は地面に倒れていた。



第五部: 村の呪い

友人に肩を揺さぶられ目を覚ますと、光一の体には無数の爪痕が刻まれていた。恐怖で村を飛び出し、二人は何とか山を下りたが、その後、光一の体には異変が起きた。

夜になると影が膨らみ、まるで別の生き物のように動き始めるのだ。やがて光一は姿を消し、再び影の村に戻ったという噂だけが残った。

村の「主」は光一を取り込み、新たな姿で村を支配するようになったと言われている。そして今日も、「影の村」の噂を耳にした者が消えていく。

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